軍事力ではロシアの方が圧倒的に優勢ですから、このままだと、どこかで組織的な抵抗ができなくなる壊滅点を迎えてしまうでしょう。
そのときには、「降伏するかゲリラ戦で抵抗するか」という究極の選択にならざるを得ないのでは。
唯一希望があるとすれば、その前に停戦で合意することなのですが、交渉は行われたものの、具体的な見通しは立っていません。
いずれにしても、非常に難しい状況にあることは間違いないと思います。
現実に停戦交渉がすんなりまとまらないだろうと考えると、これが交渉の材料ではなく、本当に更地にしてしまうような凄まじい無差別攻撃になって行く可能性があると思います。
現実に、シリアでもチェチェンでもやったわけです。
そういう意味でも、これを単なる交渉戦術だとは見られないと思います。
これまでロシア軍は地上部隊を前進させて、都市を獲ろうとして来たわけですけれども、ロシア側の準備のまずさやウクライナ側の善戦があって、必ずしもうまく行っていません。
一方でミサイル攻撃やロケット砲攻撃は比較的、前線の敵部隊に対して集中しています。
一部は都市にも行われていましたが、過去の戦争ほど凄まじい人的損害は出していませんでした。
ところが、「もうダメだ。シリアやチェチェンのように、都市に対しても無差別に攻撃する」とロシアが判断した場合には、桁外れの死者が出ると思います。
まずこれが非常に不気味です。
ここへ来て戦闘爆撃機が都市の上空へ飛んで来るようになっていますので、ロシアがこれまで投入を控えていたような戦力、あるいは使用を控えていたような方法を使い始めているのではないか、という危機感を強めています。
ハリコフでは多連装弾などが見つかりました。
これまでは平原地帯で軍隊と軍隊がぶつかっていたわけですが、軍隊の守りを簡単に突破できそうもないということになると、「無防備な都市を無誘導兵器で無差別に攻撃してやろう」ということになりかねない。
現実にそうなりつつあるわけです。


そのダメージ防ぐために、ロシア側の要求を、ゼレンスキー大統領を始めウクライナ政府はのむのかという話になって来る。
ここで「ロシアに降伏します」と言えば、当面、人死は避けられるわけですが、おそらく相当、長期にわたってウクライナはロシアの政治的な強い影響下に置かれる。
もっと言ってしまえば、支配下に置かれてしまうだろうと思います。
他方、それを避けるためには、ゲリラ戦でこの先も抵抗するか、あるいは都市に立てこもって戦うことになりますが、これは人的被害を伴うわけです。
これまでとは比べものにならないような死者が出るでしょうし、戦争は長期にわたると思います。
どちらを選ぶか。正解はないと思います。
どちらも受け入れ難いものであることは間違いありません。
そもそも国際社会がロシアの侵攻抑止に失敗してしまった時点で、ウクライナが取れる選択肢はあまりないのです。
すべて丸く収まるという選択肢は、侵攻が始まってしまった時点でありません。
最悪の状況のなかで、まだ受け入れられる最悪というようなものを探すしかないのです。
そのなかで、民主的に選ばれたゼレンスキー大統領は「あくまでも抵抗だ」と言っているわけです。
そして、西側諸国としては、力による現状変更を認めるわけにもいかない。
ロシアとの関係もあり、これまで日本が「ウクライナを支えましょう」という立場を鮮明にすることはなかったと思います。
2月28日に、岸田首相もおっしゃったように、これは明確に国際秩序に挑戦している。
つまりロシアは、これまで日本が安定して発展し、平和な国であることができた国際秩序というものを真っ向から壊しに来ているわけです。
しかもその国は国連常任理事国で、さらに核兵器を持っているため軍事的に手出しができない。
ここで日本として「ロシアの振る舞いはダメだ!!」とはっきり言うべきです。
東京大学先端科学技術研究センター専任講師 小泉 悠