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2024年2月の記事一覧

戦況悪化・支援停滞・世論の変化 ウクライナ難局の打開策は? 大統領最側近に聞く

 ロシアによるウクライナへの全面侵攻から、今日24日で2年です。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、反転攻勢が行き詰まり、厳しい局面を迎えています。

打開に向けた糸口はあるのか。

大統領の最側近、ポドリャク顧問に、大越健介キャスターがインタビューしました。

 


<ロシア反体制派は破壊された>

まず聞いたのは、最近ロシアで起きた出来事について。

 

大越健介キャスター

「ロシアでプーチン大統領を批判していたナワリヌイ氏が突然、亡くなるという出来事がありました。

彼の急死について、どう分析していますか」

 

ウクライナ大統領府 ポドリャク顧問

「これは明らかな政治的殺害で、プーチン政権が関与しています。

彼らはあえて堂々と全世界に見せつけるように殺害しました。

ロシアにプーチンの代わりがいないことを示すためです。

ウクライナは他国に比べて、ロシアで起きていることをより深く理解しています。

情報機関が積極的に活動しています。

残念ながら、ロシアの反体制派は完全に破壊されています。

反プーチンの人たちがいないわけではありませんが、ロシアで起きていることに影響を与えることができません」


<「危険な新同盟」で戦況厳しく>

ロシアが押し付けてきた戦争。

ウクライナは国土の2割近くを占領されました。

先日、東部アウディイフカから撤退に追い込まれ、前線は厳しい状況にあります。

 

大越健介キャスター

「アウディイフカからの撤退に衝撃を受けました。

この状況に懸念をお持ちですか」

 

ウクライナ大統領府 ポドリャク顧問

「ウクライナの前線は1300キロと非常に広くて、常に動いています。

アウディイフカからの撤退は戦術的な撤退です。

前線全体への大きな影響はありません。

ウクライナも前線の一部では戦術的に攻勢をかけています」

 

ただ、物量でロシアに劣っていることは認めざるを得ないようです。

 

ウクライナ大統領府 ポドリャク顧問

「ロシアは人海戦術で戦います。

たくさんの兵士を集め、いくら死のうが気にしません。

ロシアは毎日12000発の砲弾を撃ってきます。

ウクライナはせいぜい1500~3000発です。

それほどの砲弾を生産しているのは、北朝鮮とロシアだけです。

つまり本格的な弾薬不足なのです」

 

圧倒的な物量でロシア軍の攻勢を支えるのが、第三国の協力です。

 

ウクライナ大統領府 ポドリャク顧問

「先月、ロシアがハルキウを攻撃したミサイルを調べたら、北朝鮮製のミサイルでした。

ロシアは北朝鮮から120万発を受け取っています。

イランは無人機など技術的に協力しています。

3カ国間で非常に危険な新同盟が構成されています」

 

<欧米の支援は停滞 打開策は>

これに対して、欧米各国から軍事支援を集めてきたウクライナ。

しかし、供給は滞っていて、1年間でEUから100万発届くはずだった砲弾は、半分程度にとどまる見通しです。

 

大越健介キャスター

「困難がいくつかあると思うが、具体的にどう乗り越えていきますか。

戦術面、あるいは武器供与の面、両方で教えてください」

 

ウクライナ大統領府 ポドリャク顧問

「問題は3つの方法で解決しようとしています。

1つは、ウクライナ国内での『砲弾生産への投資』です。

2つ目は、欧州のパートナー国との『共同生産』です。

3つ目は、砲弾不足を部分的に補う『自爆ドローン』の活用です。

投資や生産ラインの観点から、ドローン生産は砲弾を作るよりもずっと簡単です。

しかし、もう1つ重要なことがあります。

ロシアに対抗するには長距離ミサイルが必要です。

遠い後方のインフラへ攻撃が可能だからです。

これによって、ロシアの前線における砲撃力が急激に下がります」

 

ロシアの侵略に対して抵抗を続けるには欠かせない、欧米からの協力。

しかし、最大の支援者アメリカは、資金が枯渇し、追加支援の予算案も暗礁に乗り上げています。

 

大越健介キャスター

「心配なのがアメリカで、共和党がウクライナの支援に消極的になっている。

アメリカの議会共和党や、それを支援する人たち、アメリカの人たちにどう説得したいと思いますか。

ウクライナへの支援が必要だと、どうしたら説得できると思いますか」

 

ウクライナ大統領府 ポドリャク顧問

「この戦争の代償を説明しなければなりません。

ウクライナへの投資=アメリカの評判への投資です。

『価値観を守れる』『世界をリードする立場を守れる』『国際法を守れる国』

という評判につながる投資です」

 

ただ、そこに立ちはだかるのは「アメリカ第一主義」を掲げる、トランプ氏再選のリスク。

内向き傾向を強めるアメリカの世論にもアピールせざるを得ないようです。

 

ウクライナ大統領府 ポドリャク顧問

「アメリカがウクライナに610億ドルの支援をする場合、その資金がアメリカ国内で兵器生産に使われることを説明します。

アメリカ国内の経済に資金の9割が残ります。

去年、アメリカの兵器およびサービス関連の企業は、兵器の世界市場において56%も売り上げを伸ばしました。

それもアメリカの兵器がウクライナで効果的に使われている直接的な結果の一つです」

 

<長引く戦争 世論にも変化>

全面侵攻から2年。

戦争が長引くととともに、国内のムードも変わっています。

勝利を確信する人は、いまや42%と、反転攻勢が始まったころに比べて大幅に減りました。

戦況の悪化が影を落としています。

 

大越健介キャスター

「ゼレンスキー大統領の支持率も下降傾向にあると言われています。

こうした、あまり望ましくない数字についてはどう分析していますか」

 

ウクライナ大統領府 ポドリャク顧問

「民主主義は権威主義とは異なります。

政府などが正しい判断をしているのか議論することができます。

戦争において、全員が満足することは決してありません。

人々は戦争がもっと早く終わると期待していました。

戦争が続くほど不満、失望、疲労、憂うつなどが大きくなり得ます。

しかし、立ち止まるわけにはいきません。

人々を動機付け、問題を解決し、勝利のために努めねばなりません。

ウクライナという国の存続のためには、

ロシアの敗北以外のシナリオはあり得ないと伝える必要があります」

 

 

<大統領側近ににじむ変化>

Q.大越キャスターがポドリャク大統領府顧問をインタビューするのは今回で3回目です。

どんな印象を受けましたか?

 

大越健介キャスター

「前回インタビューしたのは去年5月で、ウクライナが大規模反転攻勢に乗り出す直前でした。

ポドリャク氏はその時

『ロシア軍に2~3の戦術的に重要な敗北をもたらすことができれば、

ロシア軍の戦闘能力を完全に無効にできる』

と静かな自信を示していました。

しかし今回は、弱気な発言こそありませんでしたが、

武器、弾薬の不足などによって、ウクライナが手詰まり状態にあることは否定しませんでした」

 

こうしたなか、ポドリャク氏は、戦況を打開するカギとして

『長距離ミサイル』『ドローン』を挙げました。

長距離ミサイルは、ロシアの兵站や武器庫などを破壊。

自爆ドローンは砲弾不足を補うことができるといいます。

 

防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん

「長距離ミサイルやドローンだけでは領土奪還は難しく『ゲームチェンジャー』にならないと思う。

領土奪還のためには、地上の戦線で徐々に支配地を広げていく必要があり、

そのためには多くの兵士の動員も必要になる。

ただ、追加動員は国民の反感を買うため、踏み切るのは難しいのでは」

 

<プーチン大統領の焦り>

ロシアがウクライナ侵攻を始めてから2年経ってもこの状態。

突き進むプーチン大統領を阻むものはないのでしょうか。

 

防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん

「ロシアがジワジワと攻勢を強めていくだろう」

 

一方で、兵頭さんは、ロシアで起きた2つの動きに注目しています。

それが、今月8日、反戦派のナジェージュジン氏が、大統領選の候補者登録を拒否されたこと。

そして、今月16日、プーチン氏以外の誰かに投票することを呼び掛けていた、反体制派のナワリヌイ氏が収監されていた刑務所で死亡。

追悼した人々を当局が拘束したことです。

 

防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん

「来月の大統領選挙で圧勝するために、反プーチン勢力を力で押さえつけるためのもので、それ自体は功を奏した。

一方でそれは、プーチン氏にとって、反対勢力の存在が無視できなかったことの表れではないか。

短期的には力で抑えることはできても、中、長期的には政権が弱体化していく可能性がある」

 

Q.大越さんは、この状況をどのように見ていますか?

 

大越健介キャスター

「一番怖いのは、プーチン大統領がこのまま戦いを優位に進めていけば、

世界の独裁的な指導者たちが『先例』として、自信を持ってしまうことだと思います。

独裁的な指導者たちの勢いが強まれば、日本を含む民主主義の国々との分断が強まる可能性があります。

その意味で大事なポイントとなるのが、11月のアメリカ大統領選挙。

ウクライナ支援に消極的で、プーチン大統領との取引もほのめかしている、トランプ氏が大統領に返り咲くことがあるのかどうか。

もしそうなれば、西側の民主主義諸国が足並みをそろえるのは容易ではなくなります。

今年はその意味で、世界の将来への分岐点の年になるかもしれません」