ウクライナ、領土奪還方針を事実上放棄? 「引き分け」狙い苦渋の決断か
2025年3月12日 20時45分サウジアラビアで11日に行われた米国との会合で
「ロシアとの30日間の停戦」
という米提案にウクライナが同意したことは、
同国が事実上、
「露軍の占領下にある領土の武力奪還を断念する用意がある」
との立場を示したことを意味する。
侵略された側のウクライナにとって苦渋の決断となるが、
戦場で劣勢にある上に国力も疲弊している同国は、譲歩に応じてでも米国の支持を取り付け、
将来的な対露交渉で可能な限り「引き分け」に近い条件での停戦を実現したい思惑だとみられる。
ウクライナのゼレンスキー大統領は従来、
「領土は放棄しない」
という原則的立場を維持してきた。
「占領地域は占領者の所有物になる」
という戦争の歴史的慣例を考慮していたためだ。
しかし、ウクライナ軍は過去1年半以上、
兵力や火力で勝る露軍に劣勢を強いられ、武力による領土奪還は現実的に困難となっている。
露軍の攻撃で国内の重要インフラが次々と損傷したほか、
国民の国外避難などで人口が減少し、
欧米諸国などからの支援がなければ国家として立ち行かない瀬戸際も迫っていた。
世論調査で
「領土的譲歩をしてでも停戦すべきだ」
との声が強まっていることに加え、
米国からの停戦圧力もあり、
ウクライナは方針を転換する「潮時」が来たと判断した可能性が高い。
ただ、今回の会談では具体的な停戦プロセスは示されなかった。
ウクライナは停戦に当たり、
ロシアの再侵略を防ぐ「安全の保証」が不可欠だとみている。
また、将来的な対露交渉でカードを握るためにも、
越境攻撃で占領した露西部クルスク州の一部や、
ロシアが全域の割譲を求めるウクライナ東・南部4州を自ら進んで放棄しない公算が大きい。
4州のうちドネツク、ヘルソン、ザポロジエの3州では、ウクライナ側が現在も面積の3~4割を保持している。
ウクライナは11日、
露各地に過去最大規模のドローン(無人機)攻撃を行い、なお露国内への攻撃能力があることを示した。
11日の会合では米国から軍事支援の再開も取り付けた。
ウクライナはこれらを背景に、ロシアにも譲歩を迫りたい考えだとみられる。
(小野田 雄一)