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ゼレンスキー氏、手負いながらも断固として 離英直前に英記者団と

 

「手負いながらもやる気はある」

ゼレンスキー大統領に随行していた政府関係者の一人は、自分たちの思いをこう表現した。

ロンドン近郊にあるスタンステッド空港でのことだ。

 

イギリス政府はウクライナの大統領を精一杯「華々しく」歓待した。

その直前の2月28日にゼレンスキー氏は、

トランプ大統領とヴァンス副大統領から厳しく叱責されたばかりだっただけに。

スターマー英首相は官邸の外までゼレンスキー氏を出迎えて、抱きしめて歓迎した。

官邸のあるロンドン・ダウニング街までの沿道では、大勢がゼレンスキー氏に歓声を浴びせた。

そして、チャールズ英国王はゼレンスキー氏とお茶を共にした。

 

しかし、ゼレンスキー大統領は帰国の途につく90分前に、

世界に向けて自分の言葉で自分の意見を語る必要性を感じていた。

しかも、今度は誤解されないようにウクライナ語だけを使って。

これは、いろいろなことがうかがえる展開だった。

 

ホワイトハウスで激しく攻撃された後、イギリスでは温かく歓待された。

その大統領は、少なくとも世間に向かっては、決して落ち込んでいなかった。

「私たちが元気でいなければ、全員を裏切って失望させてしまう」

と、大統領は言った。

 

和平案について、

スターマー首相とエマニュエル・マクロン仏大統領がアメリカに見せる前に主導権を握ろうとしているという報道や、

欧州が独自に前より信頼できる安全の保証策を策定し、前より積極的に対応しようとしていることについて、

ゼレンスキー氏は好感を持っている様子だった。

 

ゼレンスキー氏は私に、トランプ大統領の要求の一つに応じる用意があると話した。

ウクライナの鉱物資源の一部をアメリカが利用できるようにする、鉱物資源協定の署名に応じる用意があるというのだ。

ただし、3年間の戦争によるあらゆる圧力にもかかわらず、

ホワイトハウスからのあらゆる要求にもかかわらず、

2日夜のゼレンスキー氏は決然として揺るぎなかった。

公平かどうかはともかく、ホワイトハウスにはウクライナを守るか見捨てるかの決定権があるのだが。

 

ロシアの占領地域をウクライナが諦めるべきかなど、現時点で話題にするのは間違っていると、ゼレンスキー氏は私たちに伝えた。

そして、スターマー首相が言及した「譲れない一線」について話すのも、まだ時期尚早だと述べた。

トランプ大統領に謝罪したり、ホワイトハウス大統領執務室での出来事に後悔の念を表したり、

そういったことをゼレンスキー氏はしなかった。

トランプ陣営は今のところ、その両方をウクライナの大統領に繰り返し要求しているのだが。

NATOの事務総長でさえ、アメリカのトップとの関係修復をゼレンスキー氏に呼びかけた。

しかし、スタンステッド空港の息苦しく狭い部屋でゼレンスキー氏は、

とても誰かに愛想を振りまきそうには見えなかった。

そういうことに関心がありそうな口ぶりではなかった。

自分は何時間もかけてホワイトハウスへ向かったのだと、ゼレンスキー氏は言った。

それは、自分の敬意の表れだと。

また、

自分は「誰かを侮辱する」ようなまねは決してしないし、

ホワイトハウスでのやりとりがあのような衝突になってしまったことは、誰のためにもならないと述べた。

 

英記者団に囲まれ、ゼレンスキー氏は使う言葉をとても慎重に選んだ。

ホワイトハウスで何が起きたのか、事後検証をある程度は避けようとした。

トランプ氏について失礼なことは言わなかったし、それどころかその名前をほとんど出さなかった。

そして、緊張はいずれ過ぎ去るという考えを示した。

 

大統領執務室でのあの恐ろしい事態を見た人なら、

自分は謝るべき立場にないとゼレンスキー氏が感じたとしても、責める気にはなれないかもしれない。

自分の国にどれほどのことが起きたのか、ゼレンスキー氏が語るのを聞けば、

戦争終結には一定の譲歩が必要かもしれないと現時点で認めるなど、

まったく無理すぎると彼がなぜ感じているのか、理解できるはずだ。

自分の国に解き放たれた暴力と苦しみについて、ゼレンスキー氏が語るのを目の前で見ていると、

彼が途方に暮れているのが伝わる。

彼は、世界を自分と同じように見ない人がいるなど、まったく信じられないと、

途方に暮れているのだ。

彼の目を通して見える世界では、

侵略者ロシアのプーチンが罰を免れるなどあり得ないし、

どのような対価を払ってでも、ウクライナの国民を何としても守らなくてはならないのだ。

 

しかし、果たして現実はどうか。

そのような明確な倫理性でこの戦争を受け止めるよう、

まだゼレンスキー氏も西側首脳の誰も、トランプ氏を説得できていない。

そして、たとえつらいことだったとしても、

妥協する用意がなければ、この戦争をどう終わらせるのか、行く末はなかなか見えてこない。

 

しかし、ゼレンスキー氏はコミュニケーションの達人だ。

紛れもなく本当に。

「我々の自由と価値観は、売り物ではない」

ゼレンスキー氏はこう言い、決して降伏しないというメッセージを伝えようとした。

鉱物資源協定に署名する意向を示すと同時に。

彼はあらためて、アメリカやその他の国々の支援に感謝した。

 

ただし、今の段階で忘れてならないことがある。

何かと言うと、

各国首脳が公の場に登場するよりはるかに頻繁に、首脳やスタッフの接触は舞台裏でしきりに続いているのだ。

私たちの囲み取材が終わりに近づいたころ、

英仏首脳が独自の和平案の一環として1カ月間の停戦を提案しているという話が、私の携帯電話に届いた。

ゼレンスキー大統領はそのような取引を知っているのか。

同意するつもりがあるのか。

私は質問した。

「すべてを承知していますよ」

と大統領は冗談のような口ぶりで答え、その場にいた人たちを笑わせた。

 

 

次々と握手を交わし、一緒に写真を撮り、そして飛行機へと向かった。

劇的で厳しい週末は、自分の言葉で締めくくりたかったのかもしれない。

しかし、この紛争についての話し合いは、これからさらに何週間も何カ月も続くはずだ。

 

ローラ・クンスバーグ BBC番組「サンデー・ウィズ・ローラ・クンスバーグ」司会