日ごろのこと、何でも!

覚えておいて欲しい 毒親にならないために

<毒親にならないためには、どうすればいいか>

 まずは親自身が勉強や成績に対する考え方を改める必要があります。

もともと親は、子どもへの影響力が強い存在です。

それゆえに、あれもしてあげよう、これもしてあげようと思うものですが、実はそこから「支配」が始まっています。

本人はそこまでやりたくないのに、友だちと遊ぶことを禁じられ、勉強を強いられ、受験をさせられて、親が敷いたレールの上を歩くしかできなくなっている。

親が「勉強ができること」に価値を置きすぎ、それを人生の成功だと思い込んでしまっているから、こうなるわけです。

そもそも勉強に熱心になりすぎる親は、親自身に学歴コンプレックスがある人が多いですね。

学歴のある人もない人も、どちらもコンプレックスを持つことがあります。

今、自分が生きるのが苦しいのは学歴がないせいで、子どもにはそういう思いをさせたくないから勉強しろという人がいる一方で、今それなりに自分がうまくいっているのは、この学歴があるからなので、子どもにもこの道を歩ませてやろうと勉強しろという人がいる。

もちろん現実の社会では、学歴があってもなくても生きていけます。

教育は大切ですが、学歴がすべてではありません。

学歴に対してコンプレックスがあると、自分の人生のいい面も悪い面も学歴につなげて考え、それを子どもに押しつけることがあるのです。

テストの点数や偏差値で人間の価値を判断してしまうことさえあります。


<毒親の干渉は大人になっても続く>

 子どもが小さいころに「勉強、勉強」と言っていた親は、やがて子どもが大人になっても門限を厳しくしたり、一人暮らしなのに毎日電話させたりして、干渉をつづけます。

結婚も許せない、実家を出ることも許せない、自分のコントロール下に置いておかないと不安で不安で仕方ない。

まさに毒親です。

そうすると子どもは、ずっとプレッシャーを感じつづけて、あるとき「頭痛がする」「動悸がする」「吐き気が止まらない」と体に症状が出てきます。

僕たち精神科医は、そういうケースをよく見聞きしていますから、患者さんの話を聞くと「それは親御さんがやりすぎだね」とわかりますが、「家族がおかしい」ことには、本人はなかなか気づけません。

こういう人は、30歳をすぎても親と一緒に精神科にやってくることも珍しくありません。

「どうしましたか」と問いかけると、90%は親の方がしゃべっている。

親が病状を説明するのを、子どもは、黙って聞いているだけです。

その時点で僕たちは、「この親子関係はおかしいな」とわかりますが、子ども自身は昔からずっとこうなので、意外と気づいていないのです。

それで体が悲鳴をあげている。

とてもきつい状況です。

子育て中の方は、子どもが成長したあとのことを想像することは難しいかもしれませんが、こういった可能性があることを、心にとめておいてほしいですね。


<親の幸せと子どもの幸せは別モノ>

 子どもをコントロールしたい、自分の言う通りにさせたいという気持ちがわいてきたら、人生の幸せとはどういうことかということを考えてみましょう。

子どもに幸せに生きてほしいと思うのは親共通の願いですが、幸せになる手段は、勉強だけではありません。

ほかに選択肢はたくさんあります。

勉強ができれば幸せになれると考える人が多いですが、勉強ができても幸せでない人はたくさんいます。

その事実をしっかりと見つめてほしいですね。

そもそも親の考える幸せと子どもの考える幸せは全く違います。

子どものためを思ってやっていることが、子どもにとっては幸せなことじゃないかもしれない。そこはいつも疑ってほしいですね。

結局、子育てでいちばん大切なことは、子どもが周りの判断にふりまわされず、自分のものさしで自分の幸せをはかれるようになることです。

その第一歩は、親が自分自身の価値観を見直すこと。

何よりも、子どもはいてくれるだけでいい存在のはずですから。


井上 智介(産業医・精神科医)