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アンモニア合成の発明者ハーバー 「栄光と影」(1)

 今日、ドイツの化学者フリッツ・ハーバーについての記事が目に留まりました。

高校の化学の教科書に必ず登場するハーバーですが、自分の知らなかった一面を初めて知り、大きなショックを受けました。

ノーベル賞も受賞した彼の栄光と影について記しておこうと思います。 

 

 化学の教科書の、「化学平衡」「非金属元素窒素」の項に必ず登場するのが、アンモニアの工業的製法「ハーバー・ボッシュ法」です。

このアンモニアの合成法は、ドイツのフリッツ・ハーバーが発明し、カール・ボッシュが触媒を改良して工業化に成功させました。(1906年)

当時、このアンモニア合成法は、「水と石炭と空気からパンを作る方法」とも言われた大発明でした。

このように言われた理由ですが、パンの原料である小麦を始めとして農作物を育てるには窒素分を含む肥料の十分な供給が不可欠です。

その窒素を供給する化学肥料を生成するのにハーバー・ボッシュ法が使えるため、この方法の発見によって農作物の収穫量は飛躍的に増加したのです。

化学肥料の誕生以前は、農作物の量が人口増加に追いつかず、人類は常に貧困と飢餓に悩まされていました。

しかしハーバー・ボッシュ法による窒素の化学肥料の誕生や過リン酸石灰によるリンの化学肥料の誕生により、ヨーロッパやアメリカ大陸では、人口爆発にも耐えうる生産量を確保することが可能となったのです。

ハーバーは本法の業績により、1918年にノーベル化学賞を受賞、またボッシュは本法を応用した高圧化学反応の研究により、1931年にノーベル化学賞を受賞しています。

 

 この方法は同時に、平時には肥料を、戦時には火薬を空気から作るとも形容され、爆薬の原料となる硝酸の大量生産を可能にしたことから、その後の戦争が長引く要因をも作りました。

その例ですが、ドイツ帝国は、第一次世界大戦で使用した火薬の原料の窒素化合物の全てを国内でハーバー・ボッシュ法を元にして調達できたのです。

 

 一方、本法によるアンモニア合成法の開発以降、生物体としてのヒトのバイオマスを、従来よりもはるかに多い量で保障するだけの窒素化合物が、世界中の農地生態系に供給され、世界の人口は急速に増加しました。

現在では地球の生態系において最大の窒素固定源となっています。

さらに、農地生態系から直接間接双方の様々な形で、他の生態系に窒素化合物が大量に流出しており、地球全体の生態系への窒素化合物の過剰供給をも引き起こしています。

この現象は、地球規模の環境破壊の一端を成しているのではないかとする懸念も生じていますが、これについてはまだ良く分かっていません。